23期生

2018年卒業

■就業活動歴

BAR 木馬館(正規雇用)(’18~)



コメント

芸工大に入学当初、私は銅版画を専攻しようと思っていました。しかし様々な技法に触れていくにつれ、私の性格にはスクリーンプリントが向いているのだなと徐々に分かってきました。
地道に腐蝕を重ねていく銅版画とは違い、版をすぐに作ることができ、かつ多彩な材料をインクにも支持体にもできる。結果がすぐに目に見える形で現れるスクリーンプリントは、超がつくせっかちの私にはぴったりの技法でした。

私は現在、バーテンダーとして仕事をしています。バーテンダーは飲食業ですから、芸術の領域である版画とは一見かけ離れているように思えますが、実はかなり似通った面が多数あります。
バーテンダーと聞くと派手なイメージを持たれる方も多いのですが、実は黒子のような地味な存在です。お客様にこちらの努力や気遣いを感じさせずに最高のサービスを提供します。
お酒というものは不思議なもので、どこで、誰と、どんな気持ちで、どんな雰囲気で飲むかで、同じお酒でも180度味わいが変わってしまうことがあります。
お客様の数少ない仕草や表情、会話などから瞬時にお客様が求めているものを判断し、いかに主役のお客様を際立たせることができるかにかかっています。

スクリーンプリントを使い作品を制作していた時と、非常に似た感覚を今でも感じています。
作者の制作意図とは裏腹に、様々な要素によって鑑賞者は多様な解釈をします。今の環境から自分の伝えたい題材、材料を考え、的確な表現方法、色彩の選択を行い、自分が納得のいく、そして鑑賞者の心に感動や衝撃を与えられるような魅力のある作品作りをする。
バーテンダーで言えば、お客様の心境に合致したきめ細かなサービスを提供するということに似ている部分があります。お酒の味はその場によって変化すると前述しましたが、目の前でお作りしたカクテルをひとくち飲まれた時のお客様の表情が全てを物語ります。
お客様にとって最も満足のいく瞬間を提供できたかどうか。
私の仕事の結果が一瞬にして分かります。スクリーンプリントと同じで「すぐに結果が見える」のです。

カクテルやウイスキーは、私は「飲む芸術品」だと思っています。
カクテルのベースにするお酒は?甘くするのか辛くするのか?色は何色にするか?アルコール度数は強くするか弱くするか?デコレーションは?
カクテルを1から作り上げる感覚も、作品制作に励んでいた学生の時と非常に似ています。

学生の時と違う点があるとすれば、失敗が許されないということです。失敗すれば2度とそのお客様はいらして下さらないかもしれません。バーテンダー本人の満足とお客様の満足は必ずしも合致しません。
学生の時、最初は先生が手取り足取り教えてくれますが、今はお客様が先生です。良いも悪いも何もおっしゃらず、ただ立ち去るだけです。お客様ひとりひとり答えは違うものですから、自分の経験を積み重ねていくよりほかありません。

また、バーテンダーはお酒の知識やカクテルを作る技術はもちろんのこと、話題の豊富さや頭の回転の良さが必要な場面があります。学生の時の経験が今の全ての土台となっています。

私は学生時代アルバイトにかなりの力を注いでおり、それ以外の限られた時間できちんと作品を仕上げるということを目標にしていました。
社会人になってから思うことですが、どんなに自分が大変で苦しい状態でも、仕事でそれを言い訳にはできません。責任があるからです。自己管理の大切さも学生時代に学ぶことができました。

当時の経験で無駄だったと思えることは何ひとつありません。ありがたいことに、今の仕事がとても楽しいと思えています。当時頑張った自分が、今の自分を支えてくれています。

私から学生の皆さんに何かお伝えするとすれば、特に展覧会や個展など、自分1人だけの力ではなく、沢山の人達の協力の上で成り立つイベントを大切にして欲しいということです。これは自らの人間性や社会性が問われる、極めて重要で貴重な場面です。良い作品を作るという以前に大事なことなのではないかと思っています。
挨拶をきちんとする。締め切りを厳守する。進んで作業に協力する。など、作品制作が終わったら自分の仕事は終わり、ではありません。作品制作以外に、人として当たり前のことをきちんとできる人は、社会に出てからもたくさんのチャンスに恵まれると思います。


「マニュアル」や、「これをやっておけば必ず成功」という答えは存在しません。仕事も制作も同じことが言えると思います。
学生のうちに是非、真摯にひたむきに、作品制作に没頭して下さい。
制作に気が乗らないなら、サークル活動、アルバイト、趣味など、無心で取り組めることなら何でも良いのです。
好きなことが見つからなくても、嫌ではないなと思えることを続けてみて下さい。いくらでも失敗でき、自分の好きなように時間を使うことが出来るのは、学生である今だけかもしれません。何でもできる今のうちに、是非、沢山のことに触れて、感じて、考えて下さい。
思いがけないタイミングで、過去の自分に支えられる時が来るはずです。

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